評価のしづらい作品。

  • 2017.08.20 Sunday
  • 09:16

JUGEMテーマ:戦争・紛争

 

 

こんにちは。

 

奇妙な本です。
あの強気な発言で数々の物議を醸した著者にしては、本書は随分と大人しい。
しかも、弁明と懺悔というに相応しい内容でもあります。

 

惹句にはこうあります。

「『永遠の0』の著者が放つ圧倒的説得力の反戦論!」

 

私の感想は、本書第2章で展開される「『永遠の0』は戦争賛美小説か」を中心とする誤解を解くという体裁です。
第1章では、零戦の弱点を挙げていきます。実に細かい指摘が連続して、それは設計思想にまで遡る。さらには、先の対戦での帝国の戦争戦略、戦術への批判へと連なっていくのです。
要するに、先の戦争で帝国は負けるべくして負けた。
これを著者は、「日本人に戦争は向いていない」と結論しました・・・。

著者のファンにはさぞや驚きの展開でしょう。

 

しかし、本書を著者個人の見解だとしても、様々な引用がなされるのですが、残念ながら引用元がまったく分からないのです(従って、読み手はその引用の真否を問えない!)


試みに2箇所引用しましょう。

 

「しかし防備のために鉄板を厚くするといった工夫をすれば重量が増します。すると当然、性能の一部が落ちることになり、攻撃能力は落ちます。その折り合いをどう付けるか、といった議論が昭和18(1943)年頃に海軍トップと技術者たちとの間で何度も行われました。
議論の結論がなかなか出なかった時、源田実参謀(戦後、自衛隊で航空幕僚長)が、こんなことを言ったのです。
『もうこんな議論は無意味だ。要するに撃たれなければいいんだ』
航空部門のトップがそう言ったことで議論は打ち切りになりました。」(P.33

 

「あの時、事故処理のためのロボットは国内にありませんでした。実は以前から、深刻な事故が起こった時に、それに対応できるロボットを開発すべきだ、という声は現場から上がっていたのです。しかし、それは上層部で握りつぶされてしまい、開発は進みませんでした。これはなぜでしょう。
仮に東京電力が万が一の事故に備えてロボットを導入しようとすると、
『おたくは事故なんか怒らないと言ったじゃないか』
という反対意見が飛び出すからです。
『確かにそうですが、万が一に備えるのはどうでしょう』
『いや、それはおかしいでしょう。事故が起きないというのなら、ロボットなど必要ないでしょう。ロボットを導入するということは、事故が起きる可能性があるということを、電力会社が認めるということになる。矛盾しているじゃないですか』」(P.35)

 

前者は年月が指定され、発言者の実名もでているので、何らかの資料からの引用なのでしょうが出典が明らかにされていません。
後者は、おそらく著者のフィクションでしょう(さもありなんではありますが)。

こういう形で、引用とフィクション、それに著者の意見がベタで書かれていますので、読み手が誤解、曲解してしまう余地が非常に大きいのです。

 

さらに論理の飛躍もあります。
先の対戦の帝国の敗因の一つに「最悪の事態」を想定しないと著者は指摘します。
と、突然日本国憲法に「非常事態条項」がないことも同じ思想である書くのです。
待て待て、日本国憲法については著者は第3章でアメリカからの押し付け憲法と主張するわけですから、この欠陥は日本人の思想ではないでしょう。(p。34)

 

そして何より次の文章は、著者の弁明が詭弁の域に達していると思います。

 

「馬鹿馬鹿しいとしか言い様がありません。侵略戦争の究極の目的は『国土と資源も強奪』です。南太平洋に浮かぶ島嶼国には、地政学的な意味から見た国土も、前述したようにめぼしい産業も資源もありません。それで私は『防犯用の鍵(国防軍)をつける意味がない』ということで、『貧乏長屋』と言ったのですが、ここには両国を揶揄する目的は一切ありません。」(P.177)

 

仮に日本国がこう言われたら著者は、その意図を汲んで黙っているでしょうか。

「極東の島国の酋長が、世界に向かって何を言うつもりか」などと。

 

 

著者は大衆小説、特にエンタメ系の作家と私は思っています。
だから、その小説は面白ければ良い。
事実、『永遠の0』は面白い小説でした。
問題は、その手の読み物に必要以上の意味付けをすることです。
だから、こんなに無理筋な弁明と懺悔の書を著者は書かなければならなくなった。
(いわゆるラノベや、ゲームの世界では戦い(≒戦争)が炸裂しています。こちらの方も批判すべきでは、とも思うんですけどね・・・)。

それから、作品と著者の思想は別に取り扱うべきで混同していけないと思います。
従って、第3章へのつっこみは致しません。

 

※ 初出

 

 

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